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「無い。あれは無い」
「何が」
ホームルームも終わり、一時限目までの僅かな休憩時間が始まった瞬間、ユウコは言い切った。
「男子転入生ってのはイケメンって相場が決まってんのよ! 何あの地味ーな奴! あたしの期待を返して!」
「ユウコ、それファンタジーの中だけのお話だから」
あまりに理不尽な言いように、転入生への同情を感じながらミリは冷静に突っ込む。
転入生の南樫エルはというと、今のところ誰にも近付かれず、1人で黙々と教科書に目を通していた。
「そっれにしても無愛想ねー」
「そう? もしかしたら緊張してるだけかもよ?」
「いやいや、あれ絶対「俺に近付くなオーラ」出してるって。何か見えるもんバリアっぽいの」
そう言ってユウコは、両手の人差し指と親指の先をくっ付けて作ったエア双眼鏡越しに南樫エルを見つめた。
「それやると何か変わんの?」
「孤独がよく見えるわ」
ウンウン、と何か納得したように頷いたユウコはエア双眼鏡を外した。
「パーツのバランスはそこまで悪くないんだよなぁ。やっぱ駄目なのオーラだね」
「ごめん、わたしには見えない」
「真面目に受けとんな。雰囲気だよ、雰囲気。あー、せめて「誰か話しかけてよ~」ってくらい可愛げがあればいいのに。あれじゃ難攻不落の要塞よ」
ユウコが、やれやれとでも言いたげに溜息を吐く。
正直、これから自分と全く接点を持たないであろう人間など、ミリにとってはどうでもよかった。
何の気もなく、ぼぅっと南樫の方を見つめていると、一瞬だけ教科書から上げられた視線と目が合った。
たまたま顔を上げたら合ってしまった、という感じだった。
見られていた事に気付いたのか、南樫はうっとおしそうに目を逸らす。
チャイムが鳴って、教室のドアが開いた。
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