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「唯人さんには返さなくていいって言ったけど。本人にも俺をダシにするなって言ったけど。あいつの唯人さんとの接点が俺だけだからな…。唯人さんが恵子を気に入ったなら問題ないけど、唯人さんだからそれはなかなかなさげ。…しずちゃん、唯人さんに何やってそうなったの?」
そうなったのそうは、私と唯人さんの距離だろう。
私は記憶を戻してみる。
戻してみても、2回目に会ったときにはすでに距離が近かったようにも思う。
たぶんあの距離は唯人さんの仕事、モデルとスタイリストくらいの距離なんだろうけど。
体を目当てにするような距離の縮め方じゃなくて、体はいらないとしたほうが縮めやすいのかもしれない。
ただ、恋愛感情ってそういうわけにはいかないと思う。
抱きつきたいとかふれたいとか、ドキドキする距離。
唯人さんを落とすなんて難しい。
私は唯人さんを落としたわけじゃない。
童貞食べてやっただけ。
恋愛感情なく、それをした私、ひどいかもしれない…。
「狙えるところと狙えないところっていうのがあるんだと思う」
私は誤魔化すようにそんな言葉を返して、料理の続き。
ユウさんも食卓を作るようにスーツの上着を脱ぐと手伝ってくれる。
「結局、俺がかまってあげなかったところを唯人さんにかまってもらったんだろ?甘えているっていうのは同じだと思うのにって思っただけ。とはいっても離婚したときから恵子は唯人さん狙っていたし、長年になってきているし。あいつも唯人さんだけってわけじゃないと思うんだけど…」
ユウさんは悩んだようなことを口にして。
その悩みが恵子さんというところが私は気に入らない。
元嫁だから気になるというより、元嫁だから自分の責任のように悩んでいるみたいだけど。
気に入らない。
放置でいいとしながら、放置しきれていない。
唯人さんの迷惑を考えたのかもしれないけど。
気に入らない。
悩むなら私とのことで悩んでいてほしい。
独占欲みたいなそんな気持ちになる。
簡単に作った料理を並べて食卓についても、ユウさんはまだ悩んでくれる。
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