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ユウさんはそのまま恵子さんに電話をかける。
長いコールのあと、恵子さんは電話に出たらしい。
放置もいやだけど。
目の前で他の女と話されるのもいやかもしれない。
気にしていないふりをして、お茶を淹れることにした。
ユウさんの恵子さんとの電話は恵子さんへのお叱りといったところなのだけど、それもうれしくはない。
ユウさんをとられたようにも思えて。
ユウさんの前にお茶をおいて、その会話に少し耳を傾ける。
「唯人さんに送ってるメール、全部俺が読んでる。…違うだろ。おまえが俺をダシにしてるから悪いって何回言えばわかるんだよっ?言いたいことが俺にあるなら今言えよ。ほら」
なんて、ケンカしているような感じ。
それでもおもしろくない。
仲良くされても更におもしろくないだろうけど、ケンカしていてもおもしろくない。
それでも口は出さずに黙ってお茶を飲みながら、その会話を聞いていた。
「…知ってる。というか、気がついた。けど、それも今更すぎる。今更そんな話を俺にしてどうするんだよ?俺と戻って何があるんだよ?養ってほしい?そういうこと?唯人さんに貢がせてるだろ、おまえ」
そんな会話が続く。
怒っているユウさんをずっと見ているのもいや。
なんて思っていたら、ユウさんは手で私にベランダで話すからとしてみせる。
それもうれしくない。
その電話、奪ってしまおうか。
ユウさんは私の了解を得ようと私を見たまま。
電話の向こうの声にその表情がくずれる。
どこか悔しげに。
あなたを悩ませるのは私だけでいい。
私はユウさんの手にしていた携帯に手を伸ばす。
ユウさんは私の手に携帯を渡した。
私は耳に当ててその声を聞いてみる。
泣き声だった。
『イサミの子供じゃないのわかっていて騙していて悪かったって本気で思ってるっ。こんなふうに怒られるのも予想できていたよっ。唯人にはかなり前にフラれて諦めついているけど、誰かに甘えたいときもあるよっ。もう私、ぼろぼろなのっ。イサミなら仲直りできたら優しくしてくれるって本当に思っていたからっ』
一方的に恵子さんが泣きながら話している。
視線をユウさんに向けると、参ったかのようにソファの背もたれに顔を俯せている。
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