さんじゅういっこめ

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恵子さんのことについては少しずつ、役に立てているのかもしれない。 そういうつもりはなかったのに、恵子さんがかまってーとする相手が私になってきた。 複雑。 ものすごく複雑。 ただ、そういう人だからユウさんや唯人さんという人に甘えられるのかもしれない。 そしてそれは私と似たものがどこかにあるということかもしれない。 休みの日、恵子さんに電話で捕まって、電話を終えてから家事の続き。 洗濯や掃除ができたら、ちょっと手の込んだ料理。 ぽんぽんに膨らんだお腹をたまに蹴る元気な赤ちゃん。 予定では男の子が生まれる。 ベビー用品も少しずつ揃えて、お迎えの準備もされている。 仕事も今月まで。 もうちょっと働ける気はするけど、完全に身重にしか見えない妊婦。 てきぱきと歩き回るよりも指示して動かすばかりだから、そのほうがまわりのためのようにも思う。 お腹を撫でながら、火を止めて。 さて次は…と細かい掃除でもしようかと思っていたら、ユウさんが帰ってきた。 「おかえり」 玄関のほうに顔を覗かせて声をかけると、ユウさんは振り返って笑みを見せる。 「ただーいま。いいにおいする。つまみ食いしていい?」 「いつものように煮物だけど」 「しずちゃんの煮物、好き」 かわいいやつめ。 ユウさんがそんなのだから、まだまだ新婚気分でいられる。 「浮気、もうしてるの?」 つまみ食いをうれしそうにしているユウさんに聞いてみると、あつっとなりながら口の中をもぐもぐ。 「相手、どこにいるように見える?」 飲み込むとちょっと怒って聞いてくれる。 「雇ってないの?新しい商品」 「うん。撤退決めた。次のことを始める元手があるうちに。デリホスのほうも他のところに任せることにした」 「私が産休終わってからにしてよ」 いきなりすぎる。 予兆がまったくなかったわけじゃないけど、決めてから言うのはやめてほしい。 ちょっとくらい相談して欲しかった。 「まぁまぁ。その話するために帰ってきたんだから。あと、これからやろうとしていることで倒産になっても、静葵と子供は守れるから」 それが嫌なのをユウさんはわかっていない。
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