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「唯人さんのお世話にはなりませんっ。ユウさんが倒れるなら支えるっ。貢ぐくらいになってもユウさんを一人にはしないっ」
私は強く言ってあげる。
「子供捨てないとできないよ、そんなの。気持ちはありがたく受け取るけど。俺の子供じゃないけど、俺の子供。捨てさせたくもない。もちろん、静葵を唯人さんに渡すつもりじゃない。世話をしてくれるって言ってくれるものを無下に断るものでもない。保険みたいなもの。それがあるから安心して乗り出せるっていうのもある」
ユウさんはその考えを真面目に話してくれる。
納得できないわけじゃない。
でもその保険は私にはうれしくない。
気持ちだけしか私には何もできないのかと思えて。
確かに赤ちゃんが生まれたら手はかかるし、そのお世話をしなきゃで、思うようにはなりそうにない。
それでもできることがあればやりたい。
わかりあえないと思うとつらくて泣きそうになって。
拗ねたようにソファに座りにいって顔を隠す。
ユウさんは私を追うようにソファまできて、ソファの足元に座って私を見る。
見られないように顔を逸らしまくる。
泣きたくないし、泣きそうになっているのも見られたくない。
ユウさんの手はそんな私の頭を掴んで、こっちを見ろと言わんばかりに固定しようとしてくれる。
「いやっ」
「静葵が話を聞かないって態度を見せるからだろ。聞けよ」
「聞かないっ」
「まだ倒産したわけでもないし、唯人さんのところにいけなんて言ってねぇだろっ。聞けっ」
それもそうだ。
言われて少しは落ち着いたけど、膨れっ面でユウさんを見る。
ユウさんはまっすぐに私を見る。
「ネット通販の服屋やる。とはいっても、唯人さんの知り合いのデザイナーが作った服を売る下請けみたいなもの。売上じゃなくてそのデザイナーが支払ってくれるものが収入になるから、賭けでもない。俺にとっては新しい分野だし、パソコンに弱い俺がするような仕事でもないって思うけど、パソコンはあるし、今雇っている奴らを放り出すこともなくできることでもある。時間も今までみたいに深夜に働くこともなくいられる。収入は減るかもしれないけど安定する。ヤクザな仕事でもない。それでも反対?」
……反対するものがない。
そのデザイナーがコケたら終わりじゃないかということくらいかもしれない。
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