さんじゅういっこめ

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新しいことを始めるのに、私の了承よりも組合の人の了承を得る方が難しかったのではないだろうか。 その案はもともと私が何を考えるでもなく出したものだから。 本当にやろうとするとは私も思っていなかったけど。 店長として今までやってきたことを踏まえても、小売業も難しいとわかってる。 売れずに在庫で圧迫されて赤字とか。 それでも高級布団や高級化粧品や壺を売ると言われるよりはマシだったと思ったほうがいいのかもしれない。 詐欺紛いの仕事をやると言われていたら、どんなにユウさんが好きでも、さすがについていけなかったと思うから。 ユウさんも見た目より真面目だから、自分が納得できる仕事にしか手をつけないだろうけど。 騙されやすそうなのだけど、簡単には騙されてくれない人なのかもしれない。 騙されたではなく、許容する人かもしれない。 もしも恵子さんが別れると言っていなかったら、ユウさんは自分の子供じゃないとどこかで思いながらも、許容して今も続いていただろう。 浮気をされても許容して続いていただろう。 許容範囲が広いから優しいように思うのかもしれない。 あとを隆一くんに任せて、私は長い休みに入る。 赤ちゃんが生まれたあとの予習をしたり、胎内教育をしたり。 暇潰しのようにしている。 恵子さんからの電話も嫌だとか複雑だとか思うこともなく、近頃は受けている。 『私もイカレてるけど、イサミもイカレてる。今は低迷しているかもしれないけど、服屋なんかよりデリヘルのほうが儲かるに決まってるのに。まぁ、服屋も幹部の後押しがあるってことは、イサミに何か買いつけさせて買うんだろうし、潰れたりはしないんだろうけど』 恵子さんは私の話を聞くと、そんな感想。 「その何かが真っ白な粉にならないことを祈ったほうがいいのかも」 『幹部がさせようとしても唯人がさせないでしょ。イサミのこと気に入ってるし。というか、唯人も幹部のおっさんにいいように使われるかもしれないし、イサミみたいな同年代といたほうが気楽なのかもね』 わかるわかると同意。 ライバルみたいなものじゃなければ、恵子さんとは仲良くできてしまう。 仲良くしたいわけじゃないけど、恵子さんがなついたようによく電話をかけてくるから話してしまう。
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