さんじゅういっこめ

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「誰でもいい」が、「あなたがいい」と心から思えること。 「あなたがいなくても大丈夫」ではなくて、「あなたといたい」と思えること。 そんな特別な誰かがいること。 予定日の前には入院して。 陣痛がなかなかこないから、促進剤を使うことになって。 ユウさんにはついていなくていいと言ったけど、ユウさんはかわりのように畑中くんという私にはあまり関係のない人をおいていってくれたりして。 赤ちゃんが無事に生まれると、畑中くんから連絡をもらったユウさんがすぐに戻ってきてくれたりなんかして。 赤ちゃんが無事に生まれてよかったより、そんなユウさんの行動がおもしろかった出産となった。 退院して、生まれたばかりの赤ちゃん、朔の子育てが始まる。 朔と書いてハジメと読む。 この漢字には新月という意味を持つ。 ユウさんのお仕事が始まりからなったこと、ここから私とユウさんの始まりというものが重ねられている。 名付けたのはユウさん。 はじめくんだけど、ユウさんみたいにサクとあだ名のように呼ばれるんだろうなと思っている。 ユウさんもちょっとそれを狙っているところがあるのだろう。 ハジメと呼んだり、サクと呼んだりするから。 私はハジメと役所に提出したとおりに呼ばせてもらっている。 私の両親もユウさんの両親もきて朔に会ってもらった。 私の親もユウさんのご両親も無事に生まれたことに喜んでくれたのだけど。 どうしてもユウさんの子供じゃないとは言えない。 そして本当の親になる唯人さんは、まだ朔に会っていない。 朔の本当のおじいちゃんになる、唯人さんのお父さんにも見せてあげたいところなのだけど、私が会える人でもない。 ご高齢だというし、唯人さんには他に女の陰はないみたいだし、孫として見せてあげたいと思ってしまうのは、いらないお世話なのかもしれないけど。 朔の頭を撫でて寝顔を眺めながら、それで元気になってくれたらいいのになと会ったこともない人のことを考える。 朔は私に似ているらしい。 まひるちゃんを見せたほうがいいのかもしれない。 唯人さんのお父さんの息子は結婚していないけど、お父さんには孫が二人いることになる。
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