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そのお客様は次の週にもきた。
常連さんになってくれたらしい。
顔を覚えていて、またきてくれたんですねと声をかけると喜んでくれる。
お客様がまったくいない時間帯もある。
そういうときになんでもないことを話したりもする。
時間潰しかもしれない。
やることあるときには忙しくて話せないけど。
「店長、名前教えてください。あ、俺、上谷隆一っていいます」
「由良といいます」
「由良、なにさん?」
「由良静葵といいます」
自己紹介みたいで、何かが恥ずかしくも思う。
「シズキさんか。何歳?俺、21。年近いかなって思ってるんだけど」
年齢聞かれて、言うのに躊躇った。
近く見てくれるのはうれしいけど。
私は31だ。
10も年下。
だいたい25あたりに見られることはよくある。
仕事柄からか、いつも若く見られる。
でも店長している25ってあんまりいないかもって、上にあがって見られていく。
「…25です」
なんて、私は嘘をついた。
どうせこの店でしか会うこともない人だし、そのうちくることもなくなるだろうし。
本当の年齢なんて言わなくてもいいと思った。
本当は年下に見てもらいたいくらいだけど、彼が申告した年齢が低すぎる。
さすがに20ですとは、厚かましすぎるかなと考慮。
「23くらいかと思った。敬語で話したほうがいい?」
嘘か本当か、彼は更に下にさげてみてくれて、ちょっとうれしくなる。
それくらいの年齢に戻りたい。
そうすれば、こんな服屋の店長なんてしていない。
もっと恋愛して、結婚して。
子供生んで。
なんていうことを考えて、過ぎた時間だと、もう戻れないんだと感じる。
「上谷さんは口が上手いですね」
「隆一でいいよ。静葵さんも敬語やめて話してよ」
軽く言われて、少し悩んでしまう。
たまに、だけど。
変なお客様もいて、電話番号書いた紙をおいていったりする人もいる。
そういうのははっきりいって迷惑。
出会いなのかもしれないけど、私にとってこれは仕事。
上谷さんと話しているのも接客という仕事。
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