第1章

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「ここにはもう来ないでくれ。 そんな昔の話をされても、 今の私にはなんの関係もない話。 それよりその子、 こんな寒いところで立ってると障るんじゃないのか?」 車に乗ろうとすると、 目の前に立ちはだかる。 「私、どうかしてたんです。 涼さんはずっと忙しくて、私との時間がほとんどとれなくて、 寂しかった… あの人… 今の夫とも、寂しさを埋めようとそうなってしまって… あんな人だとは思わなかった。 もうすぐ赤ちゃんが産まれるというのに、 家にもなかなか帰ってこなくて。 間違ってたの。 涼さんのことを信じてれば、きっと今頃、こんな気持ちにはなっていないと思うと、 あなたに会いたくて仕方がなくなって…」 なに勝手なことを言ってるんだ。 そんな身勝手なことを言ってる場合じゃないだろうが。 「とりあえず駅まで送る。 そしてここにはもう来るんじゃない。 彼女が不安になる。 愛してるんだ。彼女のこと。 結婚しようと思ってる。 君がここに来る意味はもうないんだ。 それに、 結婚して子供まで生もうと決めた相手なんだから、 正面からぶつかって話す必要があるんじゃないのか? 生まれてくる子供がかわいそうだ。 母親になるんだから、 もう少しちゃんと考えないと…」 このマリアに言ってるのか、麻美に言ってるのか… たぶん両方にだろう。 勝手な思い込みで勝手に動きやがって… ドイツもコイツも。
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