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「兄さん、遠いってよ。流石に派遣で呼ぶにしてもよ、二時間かかる場所からは呼べぇねぇよ」
「あんたに頼めば県内の風俗は全部手配してやるって豪語したじゃないか。前は呼んでくれただろう?」
男は舌打ちを一回鳴らし、再び携帯を手に話し込む。私へ取り次ぐ仕草を見せたが、手を振り断る。苦虫を潰したような表情もつけた。
男は幾度もの挑戦で感触を得たらしい。
縁側に座り、家屋の古臭い匂いと木の香りに包まれていた私の肩を強く叩いた。
「今から二人も来るってよ!」
「二人って、行為目的じゃないのは伝えてますよね?」
私の話などお構いなしに段取りを進める。しゃしゃしゃと鉛筆の音が走るのを久しぶりに聞いた気がする。
走らせた文字に記された言葉は『きみよ』と『ゆう』
「はい、ちゃんと取材可能な女の子達なんで、よろしく。じゃあまた何かあったら電話してください」
先ほどからそわそわしていたのは博打にでも行くからだろう。
──この時は、そう思ったのだ。
「三郎、今日はたけのこがいつもより多めに採れたからたけのこ尽くしだ」
「お客さんもいないんだから、豪華にしてくれてもいいんじゃないの?」
叔父は白髪ですっかり染まった頭を撫でながら、漆塗りのお盆からご飯と味噌汁を並べる。
『これがうちの満漢全席だ』と豪快に笑いながら並べるその様は、私だけに見せて欲しいものだ。
私と叔父の会話はそんなたわいも無い話で終わった。
特にする事も無いので本を読んでいたことは覚えている。うたた寝をしたのか文庫本が顔に落ちて目覚めた。
そして、その時に壁掛け時計をちらりと。
「待ち合わせは……二十一時……だったよな」
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