『序章』

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「なぁに、家の旅館には出るんだよ。裸婦の守り神様が」  聞いた事の無い単語は次第に先ほどの光景と重なる。まさか、あの人が……? 「近隣で危ない事が起きると、よう守ってくれるって有名なんよ……大雪とか、洪水とか報せてくれたり」  そんな都合のいい幽霊らしいのだが、なぜ住み着いているのか分からないらしい。  私が肌を重ね合わせたのが幽霊という驚きより、難を避けられたという想いの方が強い。 「犯人は……? まだ見つかってないんでしょう?」 「いや、さっき警察車両さ乗って行ったさ、なんでもつるつるの頭の……あれ、昼間に見たかもしれんな」  川名という男なのか。気になり、車両に近づくと確かに川名らしき人物が乗り込んでいた。私と目が合うと、中指を立てて挑発し始めた。  制止する警官。彼は私を狙って、なんらかの理由で女二人を始末したのだろうか?  全ては謎に包まれたまま、翌日には旅館を出た。  後日、川名の事が全国紙に載っていた。薬物依存による錯乱状態であったそうな。  今でもあの旅館には近づいていないが、あの女の幽霊には感謝をしている。  どこで出会うのか分からないが、再び相見える時には、相手が幽霊であれ感謝の辞を述べたいと思う。 ── 了 ──
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