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ガイラス・シティ中央大学、校舎を結ぶ渡り廊下を一人の女子学生が歩いていた。
スレンダーな体躯にタンクトップとパーカーを羽織り、デニムを履いていた。
肩まで伸びた燃えるような緋色の巻き髪と、勝ち気そうな深い蒼色の瞳が印象的な美女だった。
「シャーロット!」
聞き慣れた声で名を呼ばれた彼女…今年、経済学部に入学したばかりのシャーロット・ガードナーは、あからさまにその顔をしかめた。
「待てよ、シャーロット」
背後から歩み寄って来た同学部二年の男子学生…テッド・スペンサーは、振り向こうともしないシャーロットの肩を掴んだ。
「…何の用?」
シャーロットはさり気なく身体を引いてテッドの手を外すと、硬い声で問うた。
「新しい車買ったんだよ。これからドライブに行こうぜ?」
「………」
そう言ってにっと笑うテッドに、シャーロットはその目を細めた。
テッド・スペンサー…父親が大手電気機器メーカー代表取締役である事を鼻にかけた嫌味な男。
この男は私に興味がある訳じゃない。
他の女みたいに、私が自分になびかない事が気に入らないだけ。
それも、亡くなった父が中小企業の会社員だった、中流家庭に育った小娘が…そう思っているのが透けて見えるようだ。
「…『親に買って貰った』の間違いでしょ?」
「何だとっ…!」
シャーロットが嘲るように言うと、かっとなったテッドがその手首を掴んだ。
「人が下手に出てりゃ、いい気になりやがって…!」
「…私に触らないでっ…!」
その顔を歪めて詰め寄るテッドに、シャーロットが怒鳴った時だった。
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