第1章

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 沙良は、赤いペディキュアを白い靴下で隠している。  彼女はそのことを、誰もいない放課後の教室で、そっと私に教えた。  決して沙良は派手な女の子じゃない。でも少しだけ同じ17歳にしては、落ち着いていた。それが彼女を、大人っぽく演出していると思っていた。周りの女の子みたいにキャピキャピしている感じでもないし、自分のことを進んで話す方でもないから、謎に包まれている部分を持っていた。女子の輪の中にいつもいるタイプではなく、かと言って輪の中に入れないでもない。本を読みたいときは、無理に周りに合わせることもなく教室の隅で本を読んでいるような、皆と話したいときには、自然とその輪の中に入り会話を楽しむような、そんな女の子。だからと言って、誰にも責められないし虐めにもならない。それが彼女であり、その彼女のあり方を周りが認めている。そんな風に見えた。  彼女から女の匂いを感じたのは、私にその赤いペディキュアを教えてくれた時からだ。それまで、少し大人っぽい同級生だと思ってたのに、大人っぽいではなくもう彼女が大人であることを認識した瞬間だった。  彼女が私みたいな目立たない女の子に、なぜ自分のことを話してくれるのか、理由は分からない。大人の沙良が自分のことを話してくれる時、私は、特別な存在になったみたいな気になった。  私だけが彼女のことを知っている。彼女が、とても大人で、素敵な女性だということを私だけが知っている。
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