第1章

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 その子を拾ったのは、私が自転車をかっ飛ばして 国道沿いをレーサーのように、地上最速を気取って 疾走していた自由な時。  思い切りダンボール箱を確認!ぶちズっころんで、 反転、回転、とホップ!スッテップ!ジャーンプ! して回避したあげく、川沿いの土手まで自転車捨てて 転がった時の事です。  あ。意味が解りませんね?  っつまりは、自転車で帰宅中、横道のダンボールに 気を取られて転んで、川沿いの土手を転がったって まぁ、そんだけの事です。  え?わたしですか?  私は、えとその、あ、いや、干支じゃなくて。 マイナーな漫画家で。新木芽々子って言います。 あと、えと、その。ペペペ、ペーンネームとかあって MEMEって名前で、マイナーな雑誌にマイナーに 描いてますけれど。ドン!ガラガッシャーン!  っていうか、そんなことはどうでもいいんですよ。 私はダンボールの中の、ガリガリに痩せてヘタヘタな 敢えていうならば、私の描く線のようにヘタレちゃった その仔猫を手の平に抱いた時なんです。  その仔猫は私にハッキリ鳴きながら。  泣きながら。 『もっともっと、遠くに遠くに捨てに行くの?』と。  私はこのダンボールへ、この子を入れた馬鹿を、 武士の時代なら切捨て御免、又は生類憐れみの令宜しく 刀を抜いて一刀両断していたかもしれません。  でも現代ではそれが適わないから、冷静になってみて やはり犬猫病院へ向うべきと、判断しました。 自分がぶッ転んだ怪我なんぞは、捨て置きます。  つばつけときゃ治る。それが人間の武器なんですよ。 人間が強いのは単純明快!馬鹿だからです。 馬鹿に生きる事が人間の武器なのです。  とにかく全速力で馴染みの動物医院の先生へ。 ちなみに、ここの先生は無精髭さえ剃ればスリムで 理知的な気品の名医です。看護士のお姉さんは無茶苦茶に 歯科医かよ!って程に美人で。そのせいか。 ほとんどの猫は、この町でこの病院では絶対に反抗せず。 故に、圧倒的カリスマ医院として名高いのです。  そして、この日も診療時間外なのに笑顔で診察して頂き このダンボールから、私に届いた♀猫(推定1歳)は 上下ツートーンカラーの仔猫。 (お腹より上は全て薄茶、下は足先まで真っ白。) 犬歯以外の歯が1本もありませんでした。全部抜け落ちて。 生きようと、しがみついて。私のところへ来た。けれど。  ただ、一つだけ問題があったのです。
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