残り火

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別れを切り出したのは僕の方から。別れた方が、彼女が幸せになると思ったから。 無造作にジッポで煙草に火をつけた。 軽く吸い込むと煙草の先が赤くなり、いつものメンソールが肺に取り込まれていく。 取り込んだ空気を一気に吐き出すと、真っ白い煙が目の前に広がっていった。 その煙を視線だけで追って見る。目の前を漂うようにふわりと舞い上がり、やがてどこかに消えてしまった。 こんな風に自分の想いが、消し去ってくれたらいいのに――それとも彼女の心の中に残る僕自身が、この煙のように消えてなくなればいいのにな。 そんなつまらない事を考えながら、もう一度煙草を吸いきり、強引に灰皿へと押し付けた。 押し付け方が甘かったのか手を離しても煙草からは、ゆらりと煙が立ちこめていく。 その燻り方がまるで彼女への想いの様に見えてしまい、苛立ちを覚えた。 早く忘れてしまいたい。吹っ切らなくてはと思うのに―― ジリジリと焦げていく煙草を見つめながら、自分の心を見つめた。 そこにある想いを断ち切るようにギリギリッと煙草を灰皿に押し付けて、残り火を消し去ってやる。 「これで良かったんだ……」 小さく呟いて、強く拳を握り締めた。燻る想いを握り絞めるように。
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