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「……まあ、そういうことなら……。だけど今後こういうことがあるなら、せめてメールだけでも入れろ」
半ば納得していない様子ながらも、翔兄はそう言って一歩引き下がった。
気づかれないようにホッと息を吐く。
「じゃありお帰るぞ。すいませんでした、こんな朝早くに」
少し冷静さを取り戻した翔兄は、沙羅さんにペコリと頭を下げる。
沙羅さんは慌てて首を左右に振った。
「いえ、そんな。お兄様に断りもなく外泊させた私にも責任はありますので」
「いえいえ。うちのバカ妹が夜中に外に出るのが悪いんすわ」
「バカってなによ!」
「いいから帰るぞ。ほら」
「あ、ちょ、ちょっと──」
いきなり伸びてきた翔兄の手が、あたしの手首を掴んだ。
そのまま引きずり出されるように玄関の外へ出る。
こうなるともう抵抗しても無駄なんだ。
あたしは沙羅さんに「ごめんなさい」を繰り返しながら、ズルズルと翔兄に引きずられていった。
困ったように笑う沙羅さんが手を振っている。
あたしも苦笑いで手を振り返した。
「いたっ!」
階段を登ろうとしたところで、翔兄が急に立ち止まったせいで、あたしの鼻が翔兄の背中に勢いよくぶつかる。
「ちょっと、翔兄、急に止まらないで──」
ぶつかった鼻をさすりながら、目の前にいる翔兄に文句を言おうと顔をあげると──
「……お、はようございます」
少し驚いた顔をした先生が、「きんもく荘」の入口に立っていた。
どうやら買い物をしていたようだ。
手元には小さめのビニール袋がぶら下がっている。
思いがけず先生に会えたことに、パアッと心が晴れていく。
「先生、おはようございます」
思わず声をかけると、翔兄が振り返ってじろりと睨み付けてきた。
な、なによー。
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