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「……なにかありました?」
あたしと翔兄を見比べて、先生が訊ねる。
その表情は心配そうだ。
そうだ。
先生は、あたしが昨夜、先生を待って寝てしまったことを知ってるんだ。
翔兄と一緒に慌ただしく沙羅さんの部屋から出てきたということは、昨夜のことが関係していると、勘のいい先生は気づいたに違いない。
「な、なんでもないんです」
あたしの勝手な行動で、先生を心配させたくない。
あたしは翔兄の後ろからヒョイと顔を出して首を振った。
「ちょっとお前黙ってろ」
そんなあたしを、またぐいっと自分の背中に押しやって、翔兄は先生を真正面から見据えた。
翔兄も先生も背が高いから玄関から差し込む朝日はまったくあたしに届かず、廊下は薄暗くひんやりしていた。
まるで今の雰囲気そのもの。
「プライベートなことなんで、あんたには関係ない。じゃあな」
冷ややかな空気の中、冷ややかな言葉を放って、翔兄は再び歩き始めた。
んもー。
翔兄ってばまた先生に暴言吐いて。
あとで先生に謝らなきゃ。
ぐいぐい翔兄に引っ張られながら、すれ違いざまに先生を見上げると、眉をあげて少しふざけたような表情をつくった先生と目が合う。
まるで、翔兄のことはいつものことだから気にするな、とでも言っているような。
あはは。
先生、翔兄に抗体ができてきてる。
先生が余裕そうだと、あたしも安心する。
ニッコリ笑い返して、あたしは2階の自分の部屋へ戻った。
結局その日は翔兄がずっと目を光らせていたので、あたしは自由がきかなかった。
昨日のメールで、先生は話したいことがあるようだったのに。
気になるけど仕方ない。
明日、学校へ行ってからチャンスを見つけて先生と話をしよう。
それだけを楽しみに、あたしは兄とふたりで冴えない休日を過ごした。
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