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……。 …………。 大丈夫、大丈夫。 「あ、りおおはよ~。今日早いじゃん、どうし……」 「おはよ真亜莉!ちょっと行ってくる」 「え?行くってどこに……」 大丈夫。 なんにもない。 噂になるようなことは、なんにも。 「こらー、結城。廊下は走るなー」 「はいっ」 「って、止まらんのかい!」 真亜莉の声にも、生活指導の先生の声にも背を向けて、あたしは猛ダッシュで目的の場所へと向かった。 もうすぐホームルームが始まるから廊下にいる生徒は少なくて、すいすい進んで、あっという間に目的地。 チラリと『英語資料室』と書かれて入口に吊るされている札を見て、ガラリと扉を開けた。 あ、ノック忘れた。 そう思ったのは、中にいた先生が驚いた表情でこちらを見たから。 「……どうした」 目を丸くしながらも、いつもの調子で聞いてくる先生に、少しホッとする。 資料室には先生しかいなかった。 あたしは急いで扉を閉めると、先生のそばに駆け寄った。 「先生、話ってなに?」 「は?」 「メールくれたでしょ。話したいことあるって。今聞きたいです」 「……どうした?」 あたしの様子に、先生はふと眉をひそめる。 そして空いている椅子を引いてきて、それに座れと促される。 「結城、なにかあったのか?」 ……なにかあったのは、先生の方なんじゃ。 そんな考えが頭を掠め、思い切り首を振る。 「何もないです。先生の話がなんなのか聞きたいだけです」 「………」 あたしの言葉に、先生はしばし黙ってみつめてきた。 まるであたしの表情から、あたしの考えを読み取ろうとしているかのように。 あたしはすぐに顔に出るから。 意識して、唇をキュッと引き締める。
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