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あくまで無言で先生の言葉を待つあたしに、やがて先生は諦めたように息を吐いた。 そして── 「……谷田先生が、何か言ってきた?」 渦中の人の名前に、覚悟していたとはいえビクリと震える。 やっぱり、タニマ先生が関係しているんだ。 心臓が、嫌な感じに鳴り出す。 「タニマ先生は、なにも……。ただ、噂が……」 「噂?」 「あの……。先生と、タニマ先生が……、あの……」 たとえ嘘だとしても、これ以上は言いたくない。 口に出してしまったらそれが本当になりそうな、そんな強迫観念にも似た思いがあたしの胸をざわつかせる。 「結城」 不安が広がるあたしの耳に、静かで落ち着いた先生の声が届く。 膝の上で固く握られていたあたしの手を、そっと先生の両手が包み込んだ。 「どんな噂か知らないけど、俺が大切なのは結城だよ」 俯きかけていた顔を上げると、先生が優しくあたしに微笑んでいた。 まっすぐにあたしを見つめて、あたしの手を握る両手に力がこもる。 「もっと早く話せば良かった。不安にさせて悪かった」 まだ先生が何を話そうとしているのかは分からないけれど、この時点であたしはもう涙が出そうだった。 先生の表情と言葉と仕種が優しすぎて、胸に熱いものが込み上げてくる。 やっぱりあの噂は嘘だと確信できた。 あとは、先生の言葉を待つばかり── 「谷田先生のことで、実は結城に言ってなかったことがあって」 先生が、いよいよ核心に触れる話を始めたその時だった。 「失礼します」 ノックもなく、突然ガラリと資料室の扉が開いた。 「おはようございます、石田先生……って、あら」 あまりに突然のことに、あたしと先生はその場に固まったまま、目線だけ扉へ向けた。 「……あら。おじゃまだったかしら」 あたしと先生の握られたままの手に視線を落としながら口元にうっすらと笑みを浮かべたのは、今一番会いたくない人。 「……まるで狙ったようなタイミングですね、谷田先生」 先生が、ハアー、と重苦しいため息をついて低い声で呟いた。
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