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「誤解ですわ」
タニマ先生が肩をすくめてそう答える。
……先生、なんだか怒ってる。
一見、いつも通りの飄々とした感じなんだけど……でもこれ、怒ってる。
タニマ先生を見る先生の瞳が冷たくて、あたしは黙って2人を見比べた。
「何の用ですか」
先生の硬い声が資料室に響く。
「朝来たら、なんだか面白い噂を耳にしたものですから。石田先生のお耳にも入っているかどうかお訊ねしたくて参りました。……あなたはきっと、聞いてるわね」
不意に、タニマ先生の視線があたしに向けられてギクリとする。
まさかあたしに話しかけてくるとは思わなかったから。
「……噂?さっき言いかけてたな。一体どういう噂なんだ?」
先生もあたしの方に向き直る。
先生とタニマ先生、2人の視線を一身に浴びて、あたしはますます固まってしまう。
「え、と。あの……」
うう。
ただでさえ言いづらいのに、当事者2人を前にしたら、ますます言えないよ。
「私と石田先生、お付き合いしてるみたいですよ」
口ごもるあたしに痺れを切らしたのか、タニマ先生がサラッと言ってのけてしまった。
まるで他人事みたいな言い方で。
その言葉に、先生は心底呆れたように眉間にシワを寄せる。
「はあ?なにがどうなってそうなるんだ」
「ほんとに、ねえ?」
先生とは対照的に、クスクス楽しそうに笑うタニマ先生。
……やっぱり、噂は嘘だったんだ。
2人の様子からそう思ったけれど、まだ安心しきれない。
モヤモヤはまだ残っている。
噂はデタラメだとしても、タニマ先生との間に何かはあったのだから。
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