恋愛嗅覚

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着いたのはカジュアルなジーンズショップ。 ポカンとして動かない私に代わって、彼は先に車を降りて助手席のドアを開けた。 「行くよ?」 「…はい」 店に入るなり彼はレディースゾーンへ進み、私を振り返った。 「動きやすい格好。もちろん靴も。一つ目のお詫び。俺が買うから早く揃えて」 「…は?」 …どうして? このヒトは…少し言葉が足りない。 「…どこに行くんですか?」 「それ言っちゃあつまんないだろ?…まあ、どっちにしても君にはつまらないかもしれないけど。その時はこのプレゼントで許して欲しいな」 「森川さんは…?」 彼だってネクタイを取っただけのシャツに皮靴。 「俺は車に積んであるから。さ、早く」 彼は説明になっていない説明で私を急(セ)かした。 ワケがわからないけど、 もはや私も開き直るしかない。 だって最初から… 今日という日が現実離れしているんだから。 「じゃあ、遠慮なく」 私はヒールの硬い音を響かせながら、視界に入ったスニーカーを手に取った。
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