恋愛嗅覚

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常務はいつでも通話できる態勢だった。 「あ、あの、翔馬さんの方はもう仕事が始まってると思いますし、私の方も…もうすぐ始まります。後で…メモ、お渡ししますから。あ、ほら、常務も営業部に行かれるんですよね?時間は大丈夫ですか?」 私は常務を見てから時計に目をやった。 「ああ、そうだった。じゃあ、行くよ。メモだね、メモ。じゃあ…後で」 常務は再びドアへ向かった。 そして、ノブを回してドアを開けながら私を振り返った。 「じゃあ、行ってくるよ、西田くん」 …常務、口元が緩んじゃってるけど… 「…はい、いってらっしゃいませ」 私はその場で頭を下げた。 部屋に残された私は 常務の淹れてくれたコーヒーを見つめ 片付ける前に冷めたものを口にした。 …コーヒー…好きなんだ… 釣り付きでコーヒーも好き… 私が知り得る…数少ない彼の情報。 一つ増えただけで… 私の顔も… 常務に負けないくらい 緩んでいたかもしれない…
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