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「息は、あるな。」
倒れ伏した人物を改め、伊吹が呟いた。
「手加減したもん。」
未来が聞き止めて、得意気に応える。
『手加減して、アレ、か。』
伊吹は小さく嘆息した。
『頼もしいと言うか。末恐ろしいと言うか。』
「い、伊吹・・・!」
真理阿が人物の顔を覗き込み。
思わず声を挙げた。
「ああ。」
白髪混じりの長髪。
深く刻まれた皺。
突き出た頬骨。
一見して、老婆然とした面相だったが。
「やっぱり、コイツだったな。」
面影は、残っている。
あの、居沼杏子、と呼ばれていた女に違い無かった。
「で、でも・・・」
真理阿は恐る恐る、杏子の姿を伺っている。
「たった、15年の間に・・・こんな・・・」
所見の時には、目測で20歳前後だった杏子の、余りの変わり様に、それ以上の言葉を失う。
「・・・」
しかし伊吹は。
『何で、”知る者”の居沼杏子が、ここに?』
全く別の事を、考えていた。
『一体、ここは・・・』
「あははは!なにこれー!」
二人の思索を遮るように。
未来の嬌声が、教会内部に響いた。
「い、伊吹!あれ!」
「・・・うん。」
未来の声を追い、そちらに視線を向けた二人が見た物は。
入口から対面の壁に印された、二匹の白蛇が、互いの身体を巻き付けているような、紋章めいた、絵画。
「少なくとも、本来的にはキリスト教の教会じゃねぇな、ここは。」
キリスト教では、蛇はサタンの化身、避忌の対象の筈だ。
このように象徴然と、奉られている筈は無い。
「これって一体・・・」
「おい。真理阿。」
「え?」
「何かに似てねぇか?」
「何か、って・・・?」
「二重螺旋、て形が、さ。」
「・・・!」
伊吹の言葉に、真理阿が目を見開く。
「DNA!?」
「ねーねー。」
そんな二人を余所に、紋章を観察していた未来が、声を投げ掛けて来た。
「ここだけ、ちょっとテカテカしてるー。」
未来の指し示す、一方の蛇の頭部。
確かに、そこだけ色が異なる。
まるで。
「何度も触られたみたいだな・・・」
伊吹が呟き、その場所に歩み寄り、触れた。
次の瞬間。
「な、何だ!?」
地鳴りのような音が響いたかと思うと。
「伊吹!」
「おとーさん!」
「!」
祭壇らしき場所の下部に。
四角い、大きな穴が、口を開けた。
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