第二章 解仰

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「居沼っ!」 「!」 壁にもたれ、腕組みをして立つ居沼杏子に、伊吹は身構え、真理阿は念のため携えていた石礫を掴んだ。 伊吹にとっても、真理阿にとっても。 彼女は、元々”敵”以外の、何物でも無い。 あまつさえ、先程は問答無用で未来を襲撃したのだ。 当然の警戒と言えた。 が。 「さっきは、済まなかった、な。」 意外にも、杏子はあっさり詫びた。 「・・・?」 「・・・?」 伊吹と真理阿は、丸い眼を見合わす。 「お前達に、危害を加えるつもりは、無い。」 「だ、だって、さっき・・・」 戸惑いを隠せない真理阿の問い詰める口調には、力が無い。 「あれは、ちょっとした勘違いだ。」 「”勘違い”で、刃物向けるのか?」 伊吹はいち早く己を取り戻し、油断無く杏子を鋭い眼差しで射竦めていた。 「許せ。こっちにも事情があるんだ。」 杏子は苦笑しつつ、軽く俯いた。 「”奴等”かと思ったのでな。」 「奴等!?」 その言葉に、真理阿が思わず声を挙げる。 「あ!ニンジャー!」 そこへ、走り回っていた未来が、駆け寄って来た。 「さっきはごめんね!」 「・・・いや。先に手を出したのは、私の方だ。悪かった。」 「いーのいーの。それより、どっか痛くない?」 「いや、平気だ。あれ程の威力の打撃を、相手に傷一つ負わせる事無く叩き込むとは。なかなかどうして、大した物だな、お前は。」 「にひひ~。」 照れているのだろう。 未来は顔を染め、身をもじもじと捩った後、再び駆け出して行ってしまった。 「・・・」 「・・・」 そして、伊吹と真理阿は、気付いていた。 未来と会話をしていた杏子の目が、慈愛に・・・ もっと言うなら。 ”母性”に溢れていた、と言う事を。 「お前達の娘だろう。いい子に育っているな。」 今も、駆け回る未来の姿を、細めた目で眺めている。 「とりあえず、説明してくれ。」 伊吹は、杏子にそう求めた。 「特に、さっき言っていた、”奴等”の事を。お前の他に、生き残りがいるのか?」 「生き残り、か。」 杏子の肩が、揺れる。 笑っているのだ。 「あれを”生き残り”と呼べるのかどうか・・・」 「・・・」 「・・・」 杏子の言葉の意味を測り兼ね、伊吹と真理阿は、再び顔を見合わせた。 「兎に角、話してやろう。ここで何が起こったかを。」
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