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「居沼っ!」
「!」
壁にもたれ、腕組みをして立つ居沼杏子に、伊吹は身構え、真理阿は念のため携えていた石礫を掴んだ。
伊吹にとっても、真理阿にとっても。
彼女は、元々”敵”以外の、何物でも無い。
あまつさえ、先程は問答無用で未来を襲撃したのだ。
当然の警戒と言えた。
が。
「さっきは、済まなかった、な。」
意外にも、杏子はあっさり詫びた。
「・・・?」
「・・・?」
伊吹と真理阿は、丸い眼を見合わす。
「お前達に、危害を加えるつもりは、無い。」
「だ、だって、さっき・・・」
戸惑いを隠せない真理阿の問い詰める口調には、力が無い。
「あれは、ちょっとした勘違いだ。」
「”勘違い”で、刃物向けるのか?」
伊吹はいち早く己を取り戻し、油断無く杏子を鋭い眼差しで射竦めていた。
「許せ。こっちにも事情があるんだ。」
杏子は苦笑しつつ、軽く俯いた。
「”奴等”かと思ったのでな。」
「奴等!?」
その言葉に、真理阿が思わず声を挙げる。
「あ!ニンジャー!」
そこへ、走り回っていた未来が、駆け寄って来た。
「さっきはごめんね!」
「・・・いや。先に手を出したのは、私の方だ。悪かった。」
「いーのいーの。それより、どっか痛くない?」
「いや、平気だ。あれ程の威力の打撃を、相手に傷一つ負わせる事無く叩き込むとは。なかなかどうして、大した物だな、お前は。」
「にひひ~。」
照れているのだろう。
未来は顔を染め、身をもじもじと捩った後、再び駆け出して行ってしまった。
「・・・」
「・・・」
そして、伊吹と真理阿は、気付いていた。
未来と会話をしていた杏子の目が、慈愛に・・・
もっと言うなら。
”母性”に溢れていた、と言う事を。
「お前達の娘だろう。いい子に育っているな。」
今も、駆け回る未来の姿を、細めた目で眺めている。
「とりあえず、説明してくれ。」
伊吹は、杏子にそう求めた。
「特に、さっき言っていた、”奴等”の事を。お前の他に、生き残りがいるのか?」
「生き残り、か。」
杏子の肩が、揺れる。
笑っているのだ。
「あれを”生き残り”と呼べるのかどうか・・・」
「・・・」
「・・・」
杏子の言葉の意味を測り兼ね、伊吹と真理阿は、再び顔を見合わせた。
「兎に角、話してやろう。ここで何が起こったかを。」
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