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「もーしもー明日がー!」
「晴れーなーらばー!」
二人が、並んで声を揃えながら歌い、大股で腕を勢い良く振りつつ、山道を行く。
一人は。
桃色に紅潮した、ふっくらとした頬と黒目がちの大きな丸い瞳に多少幼い印象は受ける物の、少なくとも20代と思しき女性。
もう一人は。
その女性とどことなく面差しの似た、こちらは切れ長の眼を持つ少女。
しなやかな肢体、瑞々しい肌は、彼女が未だ成長過程である事を示しているようだ。
この二人、少々歳の離れた姉妹然と見えるが、歴とした親子である。
そして。
二人から少し遅れて、荒縄で縛った、自身の背丈の倍はありそうな大荷物を背負って歩く、30前後の男。
彼の鋭利とも呼べる眼差しは、少女に面影を映している。
その眼が、前方を行く二人の背中に注がれ、ふ、と温かみを帯びる。
やがて。
「愛・・・する・・・ひ・・・とよ・・・」
女性の歌声が、荒い呼吸交じりに、途切れ途切れとなって行く。
「おおい。真理阿!未来(みく)!」
男は察して、声を掛けた。
「少し休憩しようか!」
「な、なぁにっ!伊吹っ!もうへばったのっ!?」
女性・・・真理阿は、慌てて汗を拭い、男に見返った。
『意地っ張りも、堂に入ったもんだ。』
男・・・伊吹は苦笑を隠す。
どうやら真理阿は、自分の疲弊を認めないつもりらしい。
娘の手前もあるのだろうか。
「ああ。少し、疲れた。」
ここは自分が折れよう、と、伊吹は未だ力の残る四肢をだらりと脱力する演技で、休憩を促す。
「だ、だらしないなぁ、伊吹は!じゃ、未来!お父さんの為に、少し休もっか!」
真理阿は”お父さんの為に”を強調し、傍らの娘・・・未来に、顔を向けた。
「うん!」
未来は満面の笑顔で、大きく頷いた。
そして。
「もうお昼だもんね!私、何かゴハン捕って来る!」
そう声を挙げると、茂みの中に身を躍らせた。
「ちっとも休憩になりゃしねぇや。」
言葉とは裏腹に、休む事が決まると同時にへたりこんだ真理阿の傍らに立ちつつ、伊吹が苦笑した。
「伊吹。」
「ん?」
「伊吹も座って。」
「ああ。」
伊吹が言葉に従い、腰を下ろすと。
真理阿は、こてん、と伊吹の方に自分の頭を預け。
「へへへ・・・」
少し照れくさそうに、笑う。
「・・・」
伊吹は、真理阿の頬に、そっと掌を添えた。
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