第一章 荒野を行く

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「・・・あれから、もう15年、か。」 不意に、伊吹が感慨深気な声を漏らす。 「そうね。未来も、もう14歳。」 真理阿が、それに応える。 「未来が5歳になってからだから・・・この旅を始めて、もう9年にもなるんだな。」 「やっぱり、世界って広いねぇ・・・」 しみじみとした呟きに、伊吹はつい、笑ってしまった。 「伊吹ったら。」 少し照れ臭そうに、睨むような表情を作っては見たが、真理阿自身も口許に笑みを浮かべてしまっている。 「でも、確かにそうだな。」 「ここって、どの辺り?」 真理阿の問いを受けて、伊吹は背負った荷物の中から地図を取り出し、広げた。 「中国の・・・福建省、になるな。」 「9年もかけてそれじゃあ、地球一周した頃には、私、お婆ちゃんになっちゃうよ。」 「まあ、日本を虱潰しに回ったから、な。」 「でも・・・私達の他に、生き残った人間なんて、いるのかな。」 「・・・」 伊吹にも、それは分からない。 が、何故か。 このコースを辿り、”ある場所”まで行けば。 ”誰か”と巡り合える。 不思議と、そう確信していた。 人類滅亡後。 ”より強い新人類として、進化させた”と言う、東藤の言葉が、二人の中で引っ掛かっていた。 もし、人類の進化の過程として、あのパンデミックと。 そして、自分達と言う存在が配剤されていたのだとしたら。 子孫を残し、繁栄させて行く事が出来なければ、意味が無い。 二人の子供をどんどんと産み殖やす事も選択肢の一つだったが、その後。 流石に血の繋がった兄弟姉妹同士で子孫を残させる事は、気が咎めた。 結論として、それは最終手段として残して置く事とし、生き残った他の人間を探す旅に出たのだった。 依然、自分達以外の人間には嫌悪感の残る二人ではあったが。 ”DNAの命令通りに生きた人間は、それが計画した滅亡の為のウィルスに逆らえず死んで行った”と言う、真理阿の仮説を信じるとして見れば。 生き残った人間がいた場合、それは”DNAの命令を無視できる”存在に他ならない。 かつて”バグ”と呼ばれた、伊吹と遭遇しても”攻撃を加えない”、”暴力的な本能を発露させない”人間。 もし、そのような人間がいたとしたら。 使命感、義務感は抜きにしても、是非とも会って見たい、と、二人は思っていた。
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