第一章 荒野を行く

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「でも・・・やだな。」 ぽつりと、真理阿が呟いた。 「何が。」 「生き残りが女の人しかいなくて・・・伊吹が取られちゃったりしたら・・・」 「馬鹿。」 「だ、だって!」 真理阿は居住まいを正し、伊吹に真っ直ぐな眼差しを向けた。 「未来以来、私・・・全然子供、出来ないし・・・最終手段にしたって、未来に兄弟が出来なきゃ、しょうがないし・・・」 「俺もお前も、まだ若いし。これからだろうよ。それに・・・」 伊吹はふ、と苦笑した。 「逆だって、有り得るんだよな。」 「え?」 「生き残りが、男しかいなくて・・・って状況。」 「そ、そんなのっ!」 真理阿は 「わ、私、伊吹以外の人と、なんて!それだって嫌だよ!そんな事、絶対に無いもん!なんでそんな意地悪言うの!?」 自分が言い出した事であるにも関わらず、激しく憤慨し始めた。 「悪かった、悪かったよ。」 「私には・・・伊吹だけだもん・・・」 「・・・って・・・だ。」 「え?何?」 「・・・俺だって・・・お前だけ、だ・・・」 「聞こえないよ。もっとおっきな声で!」 「・・・本当は聞こえてんだろ。」 「え?何の事ぉ?」 その応えとは裏腹に。 先程迄の斜めになっていた機嫌は何処へやら。 ご満悦な顔で身を寄せ、腕まで絡めて来る真理阿の態度から察するに、やはり、どうやら伊吹の推量が正しいらしい。 そして。 「・・・」 伏せ気味だった目を閉じて。 差し出すように、伊吹に赤らんだ顔を近付ける。 「・・・」 伊吹はそれに応じて、真理阿の唇に、己のそれを・・・ 「たっだいまぁ!」 寄せかけた所で、山鳥らしき物を手に、未来が茂みから踊り出た。 真理阿は意味不明な、無意味な手振りをおまけに付けて、さ、と伊吹から身を離す。 伊吹は苦笑しつつ 「お帰り。」 それでも頬の火照りは、すぐには消えない。 「あっれぇ~?もしかして、お邪魔しちゃいましたぁ~?」 「なっ!このぉ、おませ娘ぇっ!」 照れ隠しなのだろう。 真理阿はいきなり、未来にヘッドロックを仕掛けた。 「わっ!お、お母さん、ギブ!ギブ!」 慌てて真理阿の身体にタップする未来。 二人は楽し気に黄色い声を交わしている。 「・・・」 そんな様子を眺めながら、伊吹は、自分の頬が弛んで行くのを感じていた。
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