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『家族・・・俺の、大切な家族・・・』
伊吹は、15年前まで。
このような、穏やかな。
そして、幸福な日々が訪れる等とは。
全く想像すら、していなかった。
人類全てとの死闘の果て、何処かで力尽き、野垂れ死ぬ運命なのだ、と。
それが自分の人生なのだ、と。
そう思って、生きていた。
だが、今の伊吹には。
愛する、妻がいる。
可愛い、娘がいる。
自分を頼り、そして愛してくれる、家族がいる。
『何だか、悪いような気がしちまうな。』
もし、人類の滅亡が。
進化の過程での事、なのだとしたら。
自分と真理阿のみを生かす為に、他の人類達が犠牲になった、と言う見方も出来る。
その、多大な犠牲の上に、現在の自分の幸せがあると思うと、何処か後ろめたいような気持ちも、多少は湧き出て来る。
特に。
『東藤・・・』
彼の人生は。
”知る者”として配剤され、己の本当に望む人生を歩めなかった、DNAの被害者。
彼の仮説を信じ、こうして生き残りを探す旅を続けているのも。
彼への贖罪の意味合いが濃い。
『まあ、そうは言う物の。』
しかし。
『お互い様と言うか、こっちも被害者みたいなモンだけど、な。』
伊吹の半生は、父母を殺され、更に本人には何の罪も無いにも関わらず、殺意を向けられ続ける生活だったのだ。
本来、謝意を抱く必要等、無い筈だ。
「あ!いい匂い!」
真理阿に後ろから抱きすくめられていた未来が、鼻をひくひくさせて声を挙げた。
物思いに耽りながらも、伊吹はじゃれあっている母娘を余所に、未来が獲って来た山鳥を手際良く捌き、起した焚火で焙り始めていたのだった。
「おいおい。まだ生焼けだぞ。もう少し待て。」
真理阿の腕から逃れ、鳥肉に手を伸ばす未来に、伊吹は苦笑した。
「全く。未来は食い意地張ってるんだから。一体、どっちに似たのかしら・・・あ、そっちの大きいの、私のね!」
「確実にお前だよ。」
三人の間に、朗らかな笑い声が起こった。
「あ、そうだ。」
暫く後。
焼き上がった肉に齧り付きながら、未来が思い出した、と言った態で、声を挙げた。
「トリ、追っかけてたらね。さっき、向こうで変なの見た!」
「変なの?」
伊吹が食事を中断し、未来に視線を注ぐ。
「うん。何か、こーんなの!」
未来は、自分の全身をくねらせ、それを表現しようと試みた。
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