第一章 荒野を行く

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『家族・・・俺の、大切な家族・・・』 伊吹は、15年前まで。 このような、穏やかな。 そして、幸福な日々が訪れる等とは。 全く想像すら、していなかった。 人類全てとの死闘の果て、何処かで力尽き、野垂れ死ぬ運命なのだ、と。 それが自分の人生なのだ、と。 そう思って、生きていた。 だが、今の伊吹には。 愛する、妻がいる。 可愛い、娘がいる。 自分を頼り、そして愛してくれる、家族がいる。 『何だか、悪いような気がしちまうな。』 もし、人類の滅亡が。 進化の過程での事、なのだとしたら。 自分と真理阿のみを生かす為に、他の人類達が犠牲になった、と言う見方も出来る。 その、多大な犠牲の上に、現在の自分の幸せがあると思うと、何処か後ろめたいような気持ちも、多少は湧き出て来る。 特に。 『東藤・・・』 彼の人生は。 ”知る者”として配剤され、己の本当に望む人生を歩めなかった、DNAの被害者。 彼の仮説を信じ、こうして生き残りを探す旅を続けているのも。 彼への贖罪の意味合いが濃い。 『まあ、そうは言う物の。』 しかし。 『お互い様と言うか、こっちも被害者みたいなモンだけど、な。』 伊吹の半生は、父母を殺され、更に本人には何の罪も無いにも関わらず、殺意を向けられ続ける生活だったのだ。 本来、謝意を抱く必要等、無い筈だ。 「あ!いい匂い!」 真理阿に後ろから抱きすくめられていた未来が、鼻をひくひくさせて声を挙げた。 物思いに耽りながらも、伊吹はじゃれあっている母娘を余所に、未来が獲って来た山鳥を手際良く捌き、起した焚火で焙り始めていたのだった。 「おいおい。まだ生焼けだぞ。もう少し待て。」 真理阿の腕から逃れ、鳥肉に手を伸ばす未来に、伊吹は苦笑した。 「全く。未来は食い意地張ってるんだから。一体、どっちに似たのかしら・・・あ、そっちの大きいの、私のね!」 「確実にお前だよ。」 三人の間に、朗らかな笑い声が起こった。 「あ、そうだ。」 暫く後。 焼き上がった肉に齧り付きながら、未来が思い出した、と言った態で、声を挙げた。 「トリ、追っかけてたらね。さっき、向こうで変なの見た!」 「変なの?」 伊吹が食事を中断し、未来に視線を注ぐ。 「うん。何か、こーんなの!」 未来は、自分の全身をくねらせ、それを表現しようと試みた。
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