第三話 指と恐怖

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「亜紀・・・」 「何?」 「いや、いいんだ・・・何でもない・・・」 飲み込むように言葉を止めた。 亜紀は卓也が口を開くのを待つ。 ウィンドウの中の夫は微笑んでいるだけだ。 彼が言いそびれたことを亜紀は考えた。そして。 「疲れているみたいね」 「俺が?」 「うん」 「確かに、ここ数日、現場は50℃を超えているから、 さすがに身体には堪(こた)える」 「早く寝たほうがいいわよ」 このまま続けていると思わぬ方向へ会話が進む気がする。 亜紀は電話を切りたかった。
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