第3章 パール・ネックレス

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 バイト先のビデオ屋の隣にある、小さな化粧品店の店員。  三つ年上の二十四才。   服は流行のものをセンスよく着こなしてはいるけれど、浮わついたところなんてこれっぽっちもない、年齢以上に落ち着いた清楚な美人…   YOUもライヴの時のメーク用品は全部ここで買い、バンドをやってることをアピールしたりして話もするのだが、思いが募り過ぎているのか、らしくもなく攻めあぐねていた。 ロックに全く興味を示してくれない普通の女性の気をひくには、YOUはあまりに多忙で、かつ、貧しすぎた。   練習や曲作りばかりでなく、ポスターやチラシ作り、デモテープのレコーディングにも時間と金はかかる。ライヴもバイトのシフトを無理やりずらしてもらって、客の入りのいい土日にやっている。彼女の店は日曜が定休だった。  そのうえ、YOUはバンド中でただ一人、実家を出ての一人暮らしだったから生活が苦しかった。  長髪のバンド野郎ができるバイトも本当に限られていた。 給料の安いビデオ屋とかスタジオか、きつい仕事…バンド以外のことに使ってもいいと思える金は一銭もなかった。  いや、本当は通帳の残高はかなりあった。家を出る時に、見かねた母親が亡父の遺産を持たせてくれたからである。
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