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「確かにこの衣装はピアノ向けだよな。これじゃドラム、叩けねーもん。」
ミーティングの最中、パラパラと音楽雑誌をめくっていたタカネがふとつぶやいた。
それはこの「町」のライヴハウスばかりではなく、ようやく都内でもちょっとは知られたライヴハウスでワンマンができるようになった頃、マリアがまだYOUというステージネームだった頃だ。
「白のレースのドレスか…ZENNさんでなきゃ着れないな。ああいう、ちょっと中性的な感じの人…」
YOUの眉がつりあがったのを見て、CUEは語尾を濁した。
YOUは昔から「女の子のように可愛い」の類いにつながる言われ方を何より嫌がっていたのである。
人にも言うな、という合図だ。あわててタカネが話をそらす。
「今度お前もバイオリンとか…ZENNさんの向こうを張ってやってみるか。」
レコーディングくらいならいいかもね、と言いかけたところ、シヴァが口を開いた。
「YOU、まずそのドレスから俺達やってみようか。」
シヴァが左きき用のギターなので、ネックの位置が左右対称になるのが二人の自慢で、それを目立たせるために二人は似たニュアンスの衣装を着るようにしているのだった。
一瞬YOUは黙った。抵抗があった。
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