第3章 パール・ネックレス

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 しかし…今の、ポジティヴ・パンク風の黒のひらひらした衣装では、先輩バンド達との違いがアピールできていないのは事実だった。  黒の衣装で他と差をつけるとすれば、シヴァの言う通り「ドレス」にするしか、性別を越えた格好にするしかないのかもしれなかった。とにかく客席の関心をひきさえすれば、曲で引き込める自信はあったから… 「俺達、ROSEとは音楽性も違うし、アマチュアでそこまでやる奴は他にいないぞ、ってウケると思うんだ。」  結局、シヴァとYOUはドレス、というか、ロングスカートに見えるワイドパンツをはくことにした。CUEの知り合いのデザイナーの卵に縫ってもらったのである。 コーディネートのために二着ずつ、それも大至急でと頼んだので、高い生地代の他に謝礼も払わないわけにいかず、二人はまたデパートの配送センターでバイトをする破目になった。  が、悲しいフリーターも、ひとたびステージに上がれば、客席が…息をのんだ。  YOUは何かがふっきれた気がした。  もう何も怖くない。俺達は俺達でしかないんだから。   しかし、いつものようにモニターに片足をかけて客を煽れば、返ってくる歓声が、いや会場にみなぎる空気はいつもよりテンションが高いように感じられる。 それは、実は自分達のテンションの高さが伝わったものなのか、よくわからない。だが、みんなはMOONの気合いを認めてくれたようだった。  MOONの客は確実に増えていった。
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