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彼女は帰り際に、口パクで亜紀へ『楽しんで』と言った。
それもあって亜紀には印象深かった。
「ご紹介しましょうか?」
「ええ」
マスターはメニューを片付け。
いま置いたばかりのビールとグラスを手にして。
「奥の席に移動しましょう。いいですよね?」
「はい」
カウンターの中を歩くマスターと歩調を合わせ。
亜紀は女性の左隣のスツールまで来た。
マスターは女性に、先に話しかけた。
「このまえ涼子さんが
『楽しんで』と言われた女性を紹介しますね」
微笑むマスター。
彼も彼女の口パクを覚えていた。
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