【吉高れな】

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ーーー…… トン と、コーヒーの置かれたテーブルの上に、封筒を立てられた。 「彩香さん、今回は暫くお会いしていませんでしたので心配していたんですよ」 キリリとビジネスマンの表情をしながらも向けられる笑顔。 この人とも長い付き合いになる。 「橋立(はしだて)さん、この本を作るにあたって結婚が決まったんですよ」 「結婚……」 はっとしたような表情を、少ししてくれた気がする。 「それはおめでとうございます。 お幸せに」 このほろ苦くも病みつきになる声で、この言葉。 一瞬の表情はいつもの仕事中の顔に戻っていた。 胸が、ツキンとした。 少しだけ。 「ありがとうございます……」 あ……まだコーヒー飲みたかったのに。 口元へ運ぼうとしたカップの中はすでに白くなっていた。 「彩香ちゃん、お代わりどうぞ」 「マスター……ありがとうございます」 みるみる黒とも茶色とも言える液体で、カップは満たされた。 それをコクンと一口飲んで、心は幾分か落ち着いたと思う。
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