終章 覇王が捧げる愛蜜の花冠

3/6
前へ
/147ページ
次へ
 ジャクシルが勝ち得た四国同盟はすぐさま国中に触れとして出され、彼の功績は大きく称えられることとなった。  その一方で、ロベリアの暗躍が発端で議会は揺れに揺れた。  ディアーナから派遣された仮面の使者の立ち合いの下、同盟各国の王がアスラーンを訪れ、その場で同盟調印の式典が行われ、議会の権力縮小案が可決された。  あくまで議会の役割は国王の補佐と限定され、国政に関する発言力は以前よりずっと低くなった。  王政の権力増大を認める代わりに敷かれたものは、同盟各国の王による対話と諮問。   これにより各国との絆を深めること、強いてはアスラーンの国際的地位が上がることになる。  かくしてジャクシルは同盟各国の協力のもと、王としての威厳と権力を取り戻し、堂々たる地位を新たにすることとなった。  ――その一方で、チルミーナは一向に目覚める兆候が見られなかった。  医師の診断では神経を侵していた毒は完全に抜けているとの診断で、アスラーンに戻ってきたチルミーナはジャクシルの意向で彼の私室の隣部屋に移動された。  事件からひと月もの時が経過していた。 「……チル、今戻ったぞ」  まるで遊女時代に戻ったように、ジャクシルは毎晩、チルミーナの部屋を訪れていた。  部屋の明かりも失われた暗い部屋の一室。  天井の月明かりがベッドに垂直に落ち、仄かな光で物の輪郭が浮かび上がる。  寝たきりの腕に刺される針痕が痛々しい。  ベッドの端に立ったジャクシルは日増しに細さを増していく腕を拐うと、そっと手の甲に口付けを落とした。  氷のように冷たかった肌は、もういつ目覚めてもおかしくないほど温かい。  いつものようにベッドに潜り込み、手を握りながら眠りにつく――それがもう日課になっていた。  横になった姿勢から天井を眺めれば、その日はいつもよりずっと月明かりが眩しく感じられた。 「……そうだったな、チルは私と一緒にこの月を眺めるのが好きだったな……」  天窓に映り込む満月は優しく淡い金色の光をベッドに届けていた。  手を握る力をほんの僅かに強めて、ジャクシルは隣に眠るチルミーナの横顔を見つめた。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

168人が本棚に入れています
本棚に追加