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Chilmina***
「ふわぁああああ、かわいいっ!
かわいいっ、かっわいいーー!!」
小さな小さな生き物はミアンヌの腕の中で愛らしい泣き声を上げていた。
「か、かわいいって……でも大変なのよ。
夜は二時間置きにわんわん泣くし、さんざん吸われて切り傷が出来ちゃったとこが沁みてすっごく痛いし……」
「でもミアンヌ、お母さんの顔になってる気がする……」
「あら、そう? うふふ」
チルミーナがぷにぷにのほっぺをつん、と人差し指でつついてやると、赤子は一瞬はっとしたように固まった後でまた、びぇええん、と泣き始める。
「ああ、よしよし、いい子ね……」
ミアンヌが我が子を抱え直し、ゆらゆら揺れながら子守唄をうたう。
その姿を眺めながら、チルミーナは先日、ジャクシルとアイシャの母親が無事に和解した時のことを思い出す。
ジャクシルが長きに渡って幽閉していた事実を詫びたことで、彼の母親も素直になることができたのだという。
自分の勝手でジャクシルや夫を置きざりにして国を出ていってしまったことへの謝罪、ジャクシルが苦心しながら国を建て直してきたことへの労い。
ジャクシルとアイシャ、二人の母親が並んだ姿を見て、やはり親子、兄妹なのだなぁとチルミーナは思った。
突然、ノックもなしにドアが開かれる。
「なんだ、また泣いているのか。
仕方ないな、よしミアンヌ、私に抱かせてみろ」
部屋のソファに腰を下ろしていたチルミーナとミアンヌの元へ、公務を終えたジャクシルが大股で近づいてくる。
なぜか誕生したミアンヌの子はジャクシルが抱くとぴたりと泣き止む。
気をよくしたジャクシルはそれはそれは得意気になって赤子のあやし役を楽しんでいる。
「いやですわ、お兄様。
お兄様に抱かせたら泣き止むだなんて、お兄様が怖いからに決まっておりますわ!」
「馬鹿な、何を言っている!?
さてはミアンヌ、お前、自分が抱いても泣き止まないからと、私に嫉妬しているのだな!?」
「違います、とんでもありませんわ!
その逆ですわ。お兄様のようになってしまわれたら困りますの。
ですから、今のうちから……」
「なんだと!」
そんなやり取りはもう茶飯事のこととなっていた。
度重なる行政体制の変更による激務も減ってきて、穏やかな時間が増えた。
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