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「苦しいに決まってる。このまま放置してたら死ぬぞ!」
「…いいよ、死んでも。あなたに会えないなら、死んでいるのと同じだもの…」
「……なにを言ってる?」
「先生…好き。本気で好きなの。私を忘れないでね…柿本さんと結婚しても…」
痺れで感覚が抜けていく手のひらを伸ばし、愛しい彼の頬に触れた。
その瞬間、吐き気と共に熱いものが喉に込み上げた。
水音を立てて床に流れる真っ赤な血。
…ああ、
私、本当に死んじゃうんだ…
一回だけで良いから、先生とデートがしたかったな…
「バカっ!死ぬなんて簡単に言うな!俺がお前を死なせない!」
遠ざかる意識の中で最後に聞いたのは、救急車のサイレンの音と、
私の名を呼ぶ、彼の声だった――。
――――
「退院おめでとう。次の受診は来週の火曜日ね。しばらくは無理しちゃダメよ」
そう言って、病棟でお世話になった看護師さんが私に一枚の紙を手渡した。
「火曜日…」
看護師さんが立ち去った病室で一人、その予約表に視線を落としたままやりきれないため息を落とした。
「退院おめでとう。次の予約はすっぽかすなよ」
立ち竦んだまま、俯く私の耳に届いた声。
「篠田先生…。また私を救ってくださりありがとうございました」
私は、二度も救ってくれた命の恩人に力の無い笑顔を向け、口を噤んだ。
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