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「何だ?腑に落ちない顔だな」
先生は扉を閉め、個室のベッドの前に突っ立つ私の方へと足を進める。
「受診日が火曜に…勝手に主治医を代えるなんて酷い」
「俺の診察は受けたくないんだろ?主治医への感情で何度も吐血されたら困るからな」
「それは…」
あんな状況で告白してしまった異常とも言える自分の姿を思い出し、気まずい顔をして言葉を詰まらせる。
「ああ、言い忘れてたけど。柿本さんと結婚するのは俺の弟。西棟に居る呼吸器外科医」
「え…エエーーッ、先生の弟!?」
「そう、弟」
そんな…
先生に弟さんが居たなんて…しかも、同じ病院に。
「俺、自分の患者に手を出す様なゲスな医者にはなりたくないんで」
「へ?」
「だから、お前の主治医は変更。これからは主治医としてじゃ無く、一人の男として治療してやる」
これからは主治医としてじゃ無く、一人の男として治療?
って…どゆこと?
正面に立つ彼を見上げ、狐につままれた様にポカンと口を開ける私。
「血を吐きながら命がけの告白されたら、今まで我慢してた自分がアホらしくなった。ったく…一生懸命で可愛すぎなんだよ、お前は」
彼はふて腐れた様にそう言った後、口端を引き上げニヤリと笑った。
今まで我慢してた?
「うそ…」
呆然とする私の額に触れる、彼の唇。
「嘘じゃない。今週末、退院祝いも兼ねてデートしような」
そう言って、彼は私の唇に優しいキスを落とした。
そうか…
この病は彼にしか治せない。
だってこれは、恋の病なのだから―――。
―――― end ――――
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