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彼女が招き入れてくれた扉の中に足を踏み入れる。
トク…トク…トク…
高鳴る胸の鼓動。
彼の指がカタカタとキーボードを打ち鳴らすタップ音が、私の鼓動に拍車をかける。
「稲森さんこんにちは。どうだい?体調は」
私が椅子に近づく気配を感じた彼は、しなやかな指の動きを止めて私に笑みを向けた。
白衣の似合うスラリとした長身。
清潔感のある短めの黒髪に、細目のフレームの黒縁眼鏡。
レンズを一枚隔てた瞳は澄んでいて。笑うと二重瞼の目じりが下がって…
白衣に相応しく眼鏡までもが似合うその優しい目で見つめられると、胸がキュンと甘くて…届かない想いが切なくて歯痒い音を立てる。
毎月第三木曜日のこの時間、私は彼に会いにこの病院にやって来る。
14歳年上の私の主治医、篠田敦(シノダ アツシ)。
出会いは三年前―――
大学受験と失恋が重なり、ストレスフルな私を襲った重度の上部消化管出血。
自宅で吐血をし、救急車で搬送された私を救ってくれたのが彼だ。
彼は私の命の恩人。
そして私は、彼に恋をしている――。
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