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「あなた、篠田先生の患者さんでしょ?」
「えっ?」
突然掛けられた声に驚き、伏せていた視線を慌てて上げる。
ファッション雑誌から引き離された視界に映り込んだのは、見ていたモデルとは対照的な小太りのおばちゃん。
あ…
この人知ってる。
篠田先生の診察日に、待合室で時々見かけるおばちゃんだ。
「…はい、主治医は篠田先生です」
遠慮がちな会釈をする私。
「だったら知ってる?篠田先生と柿本さんの事」
「え……先生と柿本さんの事?」
胸騒ぎがして、心臓がドクンと不吉な拍動を打った。
「消化器内科に入院してる友人から聞いたんだけどね、あの二人、来年の春に結婚するそうよ」
えっ……
先生と柿本さんが――――結婚?
一瞬にして、目の前が真っ暗になる。
「仕事のパートナーから恋人に発展したのね~」
おばさんの声が、思考を蝕む耳鳴りの様に聴覚に捩じ込まれる。
「お似合いよね~あの二人」
やめて……
聞きたくない…
「来年からは柿本さんも篠田さんね」
「…もう、やめて下さい!」
耳を塞いで立ち上がる。
その勢いで、膝の上に置いた雑誌が大きな音を立てて床に滑り落ちた。
「え?どうしたの?」
目を大きく見開いて私を見上げる女性。
私はその視線を振り払うようにして、その場から走り去った。
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