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……最初から分かってる。
あなたにとって私は、何百人かいる患者の中の一人で…
それ以上でも、それ以下でもない。
分かってても、それでも、
私はあなたの中で、他の患者とは違う特別な存在になりたかった。
たとえそれが、
『患者』と言う足枷を外すことが出来なくても――――。
……
あれから一か月半の時が過ぎた。
食堂が学生達で賑わう昼休み。
「ねえ、そんな市販の胃薬一つで大丈夫なの?以前は三種類飲んでたじゃない」
食堂の窓からキャンパスの中庭を眺める私に向かって、恭子が言う。
「…いいの。胃薬なんてどれも同じよ」
「同じって…以前はそれで悪化したんでしょ?あれから受診もせずに検査もすっぽかして。…それに琴音、最近調子が悪そうじゃん。ほとんど食べないし、食べてもその後にお腹痛そうにして…」
「そんな事ないから、ダイエットしてるだけだからっ」
風に吹かれ散っていくイチョウの葉から視線を外し、私を心配そうに見る親友に笑顔を向けた。
「…そう、分かった。でも、薬だけは病院で…」
「琴音、恭子!今夜コンパあるんだけど~どう?イケメン男子来るみたいよっ」
同じ学部の友人が、突然と恭子の背後から顔を覗かせ声を弾ませた。
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