恋の病は・・・

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「…ごめん、ちょっとお手洗いに…」 そう言って声を震わせて立ち上がった瞬間、目の前がぐらりと揺れて私はその場で蹲った。 痛い…… 痛いっ……お腹が…… 「琴音っ!?どうしたの!?」 遠ざかっていく友人達の声と周囲のざわめき。 助けて… 助けて……先生…… 「おいっ!大丈夫かっ!早く救急車を呼んでくれっ!!」 耳に流れ込んで来た力強い声と、私をしかと抱き寄せる腕の温もり。 私は痛みに身体を震わせ、お腹を抱え込んだまま薄れる意識の中で瞼を開ける。 ぼやけた視界に映り込んだのは、黒縁眼鏡の向こうにある彼の瞳。 「先生?…どうして…」 「さっき、岩崎って女の子から病院に連絡が来た」 「え…恭子から?」 「受診にも検査にも来ないで何をやってる!薬を切らしたまま飲酒しやがって、馬鹿かっ!」 初めて見る彼の私服姿。 言葉遣いは乱暴で、見たことの無い彼の剣幕。 「だって…」 「だってじゃ無い!一体どうしたんだ?今まで診察をすっぽかした事なんて無かったじゃないか」 「…だって…苦しいんだもん…苦しくて…息が出来ないんだもん…」 過呼吸となり、肩で息をする私の瞳から涙が零れ落ちた。
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