第1章

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 私が中学二年生の夏休みから、二学期の最初の話です。  昔の話って言われてるけれど、爺ちゃんも昔の話だって そう言うし、どのくらい昔なのかは判らないんだけどね。 この町がずっと昔、まだ村だった頃の話らしいの。昔々。  八裂き塚っていう、ちょっと気味が悪い名前の立て札が あっちこっちに今でも残ってるんだけど、立て札っていうか 丸太みたいなのが、立ってるだけで。それを削って彫って 「八裂き塚」って書いてあるだけなのね。  名前がなんか怖いけど、近くに塚とか祠とか何か祀った っていう感じの物もないし。神社やお寺も近くに無いし。 全然、森の中でもなくて、人の多いバス通り沿いなのね。 通り道の真横とかに、ポツンって普通にあるの。  しかも結構、奇麗で定期的に新しくしてるのかも。 それでも観光とか、パワースポットとかで流行っても無い。 この町は何も観る所も無いし。温泉も湧かないからね。 大体は、みんな中学を出たら市内の高校に行くの。、 当然、そのまま都会の大学へ行っちゃうんだよね。  それでも、過疎化してるって程でもなくて。 だから多くは無いんだけど、小中学校は普通にあるの。  今年の夏休みの自由研究に、私はこの町の地図を、 歩いて作ってみようって。ガイドブックみたいなの。 色々調べて、地図に載ってない所をピックアップして。  結構、楽しかった。でも夏休みが明けた二学期に 先生に言われた。それからが本当の研究だった。 「根岸。自由研究頑張ったな!凄いじゃないか! ただ、あー何だ。ここにガイドされている場所以外は 河の方は、まぁ土砂崩れなんかもあるから、そのな。 近づいたり、写真を撮ったりとか、してないよな?」 「え、あ、はい。私も河とかは危ないから。なるべく 図書館や、役所方にお願いして資料から取材しました。」 「そうか。そ、それならいいんだ。とにかく根岸に 怪我が無くてよかった。そうか。いや見事な研究だな。 これはクラスで発表して貰おうかな。」 「あ、ありがとうございます!嬉しいです!」 「そうかそうか。じゃあ、気をつけて帰れなー。」 「はーい!センセーさようならー!」  大嘘です。  私は山合いも河沿いも、全て自分の足で取材して 写真にも記録しました。これ提出できない資料です。 この八俣町(ヤマタチョウ)の地図。本当の地図。 『八裂き村』  特に誰も気にしない。名前が気味悪いっていうだけ。
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