1章 ノリで生きる丘バイの苦悩

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「ナイッショーッ!」 三上が決めるたびに、デカイ声を張り上げる。 「オラオラ、ビビってんのかー?」 もちろん野次も忘れない。 応援任せられた手前、いつもどおり声を出しまくる俺だったけれど、内心はそれどころじゃなかった。 ……めっちゃすげぇ。 どっちも。 三上がサークル内で見たことないくらい上手いことは分かっていた。 でも、対する王子も壮絶に上手かった。 ほぼ互角。 「三上ぃぃーっ!」 コートの隅に、ショットが決められると、悲鳴に似た叫び声が出てしまう。 三上はパワーヒッターだが、王子はコースを突いてくるのが上手い。 出来る限りの声は出しながらも、超絶に上手い二人の、タイプの違うプレイに見とれた。 結局セットカウント2-1で三上が勝った。 勝ったはいいのだけれど、ゲームはかなり取られていたし、最後まで苦戦していた。 「先輩、俺頑張りました!」 汗だくの三上が、満面の笑みで言う。 「おー。めちゃくちゃ頑張ったな!えらかったぞ」 汗でびしょびしょの頭を撫でてやる。 後で洗ってやりたい……。うっかり飼い犬扱いしそうな自分を抑える。 「……っと、長引いたからダブルス1始まってるな!」 急いでコートを移動する。 試合前あんなこと言ってたし、応援に行かなかったら、後で拗ねそうだからな。 なんだかペットが増えたような気分だ。 藤木のキャラってあんなのだったかな。 藤木の相方は、いつも3年の森川(もりかわ)先輩で、このペアはかなり固い。いつも安定していて波がないので、安心して見ていられる。 俺はすでに嗄れてきた声をさらに張り上げた。 「藤木ーっ!ナイスショーッ」 気付いた藤木が、ラケットを構えたまま、横目でこっちを見てニヤリとした。 よし、アピール完了。 安定のペアは安定したショットをガンガン決め、危なげなくゲームを取った。 「シングルス2本、ダブルス1本取っての勝ちかぁ」 練習試合が終わり、コート整備のトンボを引きながら呟く。 西大寺大学は、決して弱い方じゃない。これまで負けることの方が多かった。 うちが強くなったのかな。三上とか藤木とか……。 俺も頑張んなきゃな……。 明日から走りこみでもやってみるか、と真面目に考えた。
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