1章 ノリで生きる丘バイの苦悩

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***** 練習試合のあとは、両大学揃っての打ち上げと決まっている。 今回はうちがホームだったので、いつもの『はちべえ』を予約した。予約60人とか、久しぶりだ。 久しぶりのでかい飲み会に、ワクワクする。 というのも、試合のなかった女子部員も合流すると聞いたから。他校の女子と交流するまたとない機会! 「今日は飲むぞ!盛り上がるぞ!」 乾杯の後、立ち上がってジョッキを片手に宣言した。 「いつもだろ……」 下から藤木のため息が聞こえたが、華麗にスルー。 練習試合、夜の部のスタートだ。 夜の部の俺は、自他共に認めるサークルナンバーワン。 今夜もノリノリです。 「かんぱーい!」 ギャルたちのグラスに、ジョッキをぶつける。 西大寺のテニスサークルは、女子のレベルが高い。 俺はホクホクとその輪に混じったけれど、中心にはあの王子がいた。 いけすかねーが、この際仕方ない。一緒に飲むくらいなら大丈夫だろう。 「ねーねー、キミ能美くんだったよね?」 「覚えてくれてた?うれしーな」 「忘れないってぇ、キミみたいなキャラー、周りにいないもん」 「ありがと、それって誉めてくれてるぅ?」 「さぁねー。言葉どおりかなっ」 可愛い女子と肩をつつきあいつつ、会話を楽しむ。 あぁ……心が潤う。 至近距離に、あの王子もいるが、別の女子と話していて絡みはない。 ていうか、今は男なんてどうでもいい。 「能美くんてさ……」 突然、彼女の声のトーンが変わった。 「……バイなんだって?」 それ、他大学にまで流れてんのか? それとも、俺酔っ払って自分で吹いて回ったか? でも、まぁ……否定はしないでおくか……。 「うん。そうだよ」 ニッコリ笑って言う。 「そうなんだー。私、偏見とかないから安心して。てか、似合うねー」 「似合うって……」 彼女の言葉に苦笑しながら顔を上げると、肩越しに王子と目が合った。 一瞬視線が絡まり、王子がクスッと笑った。 今度は、昼間に見たような小馬鹿にした笑い方じゃなかった。 聞かれた……? ま、いいか。 自分で設定したキャラだしな。 言い聞かせて、ビールを煽った。
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