1章 ノリで生きる丘バイの苦悩

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***** サークル部屋のドアを開けて、ロッカーの前に立つ。 着替え、着替えっと。 ふと視線が気になって、隣でシャツ半かぶりの藤木を見た。 「……なに」 「いっ、いやお前、気にしねーの?」 「は?」 「バイだとか言ってるわりに、スパンスパン脱いじゃっていーわけ?」 ……っ!そうだったぁー!全く意識してなかった! やっべ。どうするよ? 「……べ、別にお前相手に意識したってしょーがねーだろっ」 吐き捨てるように言って、背を向けた。 「お前が意識しようがしまいが、俺はどうでもいいんだけどさ。一応気をつけろよ、オープンにしてるんだから……」 藤木の言うことももっともだが、正直男の着替えに恥じらえって方が無理だ。 丘バイの苦悩は続く……。 ラケットバッグを肩に担いでコートに出る。 テニス自体、めちゃくちゃ上手い方ではなく、ほどほどだが、何事も形からだ。 服装もガチガチのテニスウェアは敢えて避け、こ洒落たTシャツに短パンで、チャラっと感を出す。 体育会系の部活ではこうは行かない。サークルならではの緩さだ。 集合がかかるまで、藤木と軽くラリーをする。 パーン、パーンと小気味よい音がして、ラケットのホットスポットに当たってることがわかる。 気分良くラリーを続けていると、黄色い声援が耳に入った。 「きゃーっ!フジノウ最高ーっ」 ……なんだその省略形は。 若干コケつつも、1人や2人じゃない声援に、気を良くしてラリーを続けた。 ああ見えて、藤木もイケメンの部類だ。テニスもまぁ上手い。よってモテる。 「……コート外で騒ぐぐらいなら、サークル入ればいいのに」 藤木がしれっと言う。 こいつは見た目爽やかくんだが、中身は案外クールだ。モテるくせに女の子に容赦ない。 「はーい。頑張ってるよーん」 女子の皆さんに、ブンブン手を振って見せる。 冷たい藤木をフォローすべく、俺はギャルサービスに精を出した。 「てか、よかったらサークル入ってねっ。キミたちみたいなかわいーコ、大歓迎!テニスも楽しいよー」 リップサービスもぬかりなく。
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