1章 ノリで生きる丘バイの苦悩

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「えーと、わがサークル『ブレイクショット』も今年で10年目を迎えましてぇー、今年も新入部員が入ってくれましたー」 椎ノ木先輩の、多少間延びした声が座敷中に響く。 「法学部1年の三上(みかみ)くんでーす。なんとテニスは経験者!新人戦は期待できそうで楽しみです」 へー……。 経験者なのかぁ。 サークルに経験者なんて珍しいな。 チャラいルックスに似合わず演説好きな、椎ノ木先輩。 右から左へ聞き流しながら、先輩の向かいに座る新入部員くんを眺める。 んー。……でかいな。 座っててもわかる、デかさだ。肩幅から座高から。 その三上がすっくと立ち上がった。どうやら自己紹介を促されたらしい。 「法学部1年、三上信吾(しんご)です。出身は新浜高校で、テニスは中高とやってました。えーと、よろしくお願いします」 ペコッと頭を下げた。 でかい図体に似合わず、動作が可愛らしい。 人懐っこい笑顔にも好感が持てる。 あとはノリがよかったら俺の舎弟にしてもいいな、なんて考えながら、乾杯のためにビールを注いで回った。 こういうのは下っぱの仕事だ。 サークルとはいえ、上下関係はキッチリと。わが『ブレイクショット』のモットーだ。 「あ、ありがとうございま……す」 三上のグラスにも注いでやる。 「今日だけなー。今日はお前が主役だからなっ。次からは注ぎに来いよ」 ニカッと笑って言うと、三上は一瞬固まった。 「はっ……はいっ!先輩……?」 「俺は能美。総科の2年。後で飲もーなっ」 骨太の肩をバンバンッと叩いて、席に戻った。 「能美ー、飲み過ぎぃー」 教育学部2年の田村(たむら)が、俺の背中をはたく。 宴もたけなわ。コールに乗ってピッチャーでビールを空けていた俺は、できあがりつつあった。 そう言う田村も、顔が真っ赤だ。 赤くなるけど飲める、と豪語する彼女。ノリがいいので、飲み会ではいつも一緒に盛り上がっている。 「能美、お開きだ。2次会行くぞ」 酒の場でもクールな藤木に引きずられるようにして、『はちべえ』を後にした。
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