1章 ノリで生きる丘バイの苦悩

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さすがに疲れた。 ちょっと休憩……とボックスを出てトイレに立つ。 帰り際、上の階へ続く階段に座る大きな影を見つけた。 躊躇いなく声をかける。 「どした、歌わないのか?」 「能美先輩……。すごいっすねぇ」 三上は多少トロンとした目をしていた。新入部員ってことで、1次会でも相当飲まされてたから、回ってるんだろう。 「てか、先輩ぃ来てくんないしぃ……」 でかい図体ですねたような口調。 「は?……あぁ、1次会か。わりーわりー。お前、先輩らに囲まれてたからさぁ」 「俺、待ってたのに……」 うわ、いじけた犬みたいになってるよ! 何これ、見た目とギャップ有りすぎ! もしや、ギャップ萌えってやつですか? 今度綾子辺りに聞いてみよう。うんそうしよう。 「先輩ぃー。これからよろしくお願いしますねー。俺、先輩について行きますからぁ」 でかい図体で絡んでくる。 ゴツい腕が背中に回り、肩口に頭が擦り付けられた。 何コイツ、酔ったら甘えるタイプなの? 「わーった!わかったからぁ……ほら、歌いに行くぞ」 俺は、覆い被さってくる三上の背中をバシバシ叩いた。 「何お前、もう三上タラシこんだのか?」 カラオケの帰り、駅までの道で、藤木が聞いてきた。 「は?タラシこむって何よ?」 「見たぞ。階段とこで抱きしめられてんの……」 げ。マジで? 「イヤイヤ、抱きしめられてはないって。絡まれてただけだしー」 「本当か?お前、天然タラシだし、信用ないよなぁ。おまけにバイなんだろ?三上みたいなの、タイプ?」 そうだった! 俺はバイ。バイだったらどういう反応する? んー……。 「ま、タイプかどうかは置いといて、確かに三上いいカラダしてるよな。抱かれ心地よかったし!」 ……こ、これで正解? 「やっぱタラシたのか。お前ってヤツは次から次へと……」 「は?」 「いや、なんでもない。走るぞ。終電来る」 「マジで?ヤバッ!」 俺たちは走り出した。 「……先輩。バイって……、何?」 後ろで呟くでかい影には気付かずに……。
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