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乾乾は先程の光景が頭から離れなかった
友人の妹がいきなり飛んできた能力者の電撃を両手で受け止める構えをとる。流石にそれは無理があるだろうと、誰もが思ったその行動を、彼女は見事にやり遂げていた
…………
青白い光の塊が流の手の前で止まっていた。普通の人間に不可能なそれは、少女をとある優れた力の持ち主である事を示唆していた
(流ちゃん……)
自分にはない力。決して埋めようのない力。努力ではたどり着けない力
乾は目の前の少女が、一緒によく遊んだ少女が、どこか遠くに行ってしまったかのような感覚に陥る
やがて、少女は青白い光を上方へ弾き飛ばした
「はぁ……はぁ……!」
荒い息、それが能力を使っての疲弊なのか、恐怖からきたものなのかはわからないが、少ししてから大きく息を吐いて膝をついた
「やった…やったよ、乾ちゃん…!」
心底嬉しそうな顔でこちらを見る流。その姿を見て、乾は言葉に詰まっていた
「乾ちゃん……?」
心配そうな顔をする流。その表情を見た乾は、ハッと我に返る
「い、いや~凄いさね流ちゃん。今のが流ちゃんの能力なのさ?」
「あ、うん。わたしの能力、手で触れた物の動いている方向を変える能力なの」
「方向を?」
「うん。例えば左からやってきた風を上に流すとか、渦を巻いている水の流れを反対にするとか、1の力を1のまま方向転換させる能力なんだ。さっきのも同じ原理で正面方向の力を上方向への力に変換したってところ。まあ、手で触れないといけないから、さっきの熱で火傷しちゃったんだけどね」
えへへ、と照れ隠しをしながら自分の手を見せる流。彼女の手は赤く染まっていた。少なくとも年頃の女の子がしていいような状態ではない
乾はどんな顔をしていいのかわからなかった。喜ぶのは何か違うし、怒るなら寧ろ自分にだ。悲しめば彼女の笑顔は曇るだろうし、楽しむ要素は皆無
なんとも言えない表情で乾は流の手を握った
「け、乾ちゃん!?」
「…………」
「ちょっと……手、痛いよ……」
一方、流は乾の行動に困惑しながらも、彼の気持ちを察していた。自分の行動はおそらく誰かを心配させる物だ
(でも……)
自分の代わりにこんな行動をいつもしてくれる兄は、明日にはいなくなる。自分がこんなままでは兄に負担しかかからないだろう
(わたしは、変わらないといけないから)
少女は静かな決意を胸に抱く
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