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徹の姿が見えなくなったのを確認した白井は、美琴の方へゆっくりと振り向く。初春や衝波は別の作業でここにはいない。自分もまだ作業がある。言うことは一つだろう
「お姉様…お姉様もそろそろ帰られた方が……」
白井の尊敬する少女の表情は暗い。被害にあった者は一名、それも比較的軽い怪我で済んでいる
いくら優しすぎる彼女でも、それだけでここまで落ち込むだろうか
「…ねえ、黒子」
「は、はい!」
いきなり声をかけられ、白井はドキッとしながら美琴に返事をする
「もし、大切な人が傷つけられたら、アンタはどうする?」
真剣な表情。今まで悩んでいたのはそういうことか。白井はおおよその事を察した
(おそらく、あの殿方に怒られた理由を知り、初めてぶつけられたその怒りに、お姉様はお悩みに…)
「…黒子?」
「…まずはその方の安否と怪我の程度を確認し、警備員と風紀委員、必要とあれば救急車を呼んだ後に犯人の捜索、そして見つけ次第無力化します」
淡々と話す後輩に、美琴はまだ納得していない表情をする
「そうじゃなくて、アンタ自身はそいつの事をどう思うのよ」
「もちろん怒りは出ます。ですが、わたくしは風紀委員(ジャッジメント)。市民の安全が第一なんですの」
「もし風紀委員(ジャッジメント)に入ってなかったら?」
「生まれてきたのを後悔させるぐらいの事をします」
コイツよく風紀委員に入れたな、と美琴は心の中でそう思った
「もちろん冗談ですが」
「冗談かい」
「ですが、もしお姉様が誰かを傷つけて、そんな怒りをぶつけられたのなら、それに対して悩むのなら、例え何を言われようと、わたくしはお姉様と共にその方のもとへ謝罪しに向かいます」
「黒子……」
目の前の後輩はいつもの変態的な行動を取る姿とは違う。その姿は、眼差しは、風紀委員の姿そのものだった
「…ありがとう黒子。そうね、こんなところで悩んでいる場合じゃなかった」
(もう、大丈夫そうですわね)
少女の表情に明るさが戻り、それを見た白井の顔にも笑みが浮かぶ
「というわけで黒子、その被害者の姿と名前を──」
「出来ません」
「……え」
「個人情報にあたりますので」
「この流れでそれ言う?」
「申し訳ありませんの……」
美琴の悩みが解決するまで、もうしばらくかかりそうだった
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